[本]生物と無生物のあいだ

この本にも先日書いたミクロ・マクロの話が出てきました。先日は素粒子と原子の話でしたが、この本では原子と生体の話で出てきます。その話はこの問いで始まります。「なぜ原子に比べて、生体というのはこんなにも大きいのか?」あらためて問われると、そういえばと思うような問いです。普通我々は生体はこの大きさだと思っていますが、原子一個があんなにも小さいのだから、機能的な動きをする集合体として「原子数十個」で構成された集合体があってもよいはずです。なのに、生体はこんなにも大きい。
これはなぜか。
原子というものはミクロの視点で見てみるとそれぞれにランダムな運動をしています。これは昔、化学の時間に「ブラウン運動」として習いました。コップの中に水が入っているとします。大体の水分子は重力により下方向に引っ張られています。ただ、ミクロの視点で見るとランダムに運動しているので、いくつかのわずかな分子は空気中に飛び出してしまいます。長時間これが続くと、ついにはコップの水がなくなってしまいます。つまり蒸発です。
これと同じように生体の中でも一定の割合で、こんなランダムな運動をする分子があります。その割合は、全原子の数を√(ルート)した数字になります。全部で原子が100個だったら、10個です。10000個だったら、100個です。前者では割合は10/100、つまり10%ですが、後者だと100/10000、0.01%です。全体の数が多くなればなるほど、幾何級数的にランダムな運動をする原子の割合が減っていきます。それだけ全体としては安定していくわけです。この安定を手に入れるため、生体というのはある程度以上の大きさを必要とするのです。

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)