畑正憲

 畑正憲『もの言わぬスターたち』(中公文庫)を読んでいる。
 たぶんこの本は簡単には見つからないだろう。なんてったって、昭和49年初版だ。まだオレ生まれてないよ! 古本屋で購入。105円だった。
 
 古本屋はおもしろい。新刊本屋にはない雑多性がある。まさに本の海から一滴を見つけ出す作業だ。死ぬまで本を読み続けても、存在している本のほんのごく僅かしか読めないんだろうなぁ。古本に興味が出てくるってのは、本読みとしてちょっとゲテモノ食いというか、マニアックになってきたってことなんだろう。ああ、もう並みの本では満足できない身体に…。
 
 さて、『もの言わぬスターたち』である。ムツゴロウさんの巨大なエネルギーが記録された本である。もうすげえ動物好き。というか好き以上。その情熱はすごい。この本はムツゴロウさんの会社員時代、学研映画で生物記録映画を制作していたころのエピソードなんだけれども、すごいのがムツゴロウさんだけではない。集まってる連中みな、ものすごい情熱を動物および映画に注いでいる。なんてったって、まず家に帰らない。目的とする映像を撮ったり作り出したりするまでは、3ヶ月でもずっと撮影室にこもる。また、荒れた大波の中に突入していく。冬の海の中で、魚群を撮影するためにずっと潜っている。ヒグマに向かっていく。それで数々の賞を受賞する作品をどんどん撮っていくのだからすごい。
 
 文章も力強くて引き込まれるように読んでしまう。他のムツゴロウさんの本もちらりと読んでみたが、ここまで力強い文章で書かれた本というのは、それほどないのではないだろうか。やはり若さゆえの情熱だろうか。あー、熱いわ、ムツゴロウさん。さすが王国を築いてしまうだけのことはある。